『ジョーカー・ゲーム』

シリーズの幕を開いた『ジョーカー・ゲーム』、読者の想像を上回る展開が快いテンポとともに綴られています。「スパイの仕事は、泥棒とは違い、盗られたことを相手に気づかせてはならない」という表現を見ると、世に流布している多くのスパイ作品の是非は脇に置き、冷徹な「リアリティ」を感じさせます。収録されている「XX ダブル・クロス」は、日本陸軍上がりの人物を中心に据え、その中で覚える違和感が文体からも感じられて、柳広司の他の作品では過去に見られなかった奥行きのようなものを提供してくれます。旧日本軍の非合理的な体質への批判が根底にあり、納得させられる部分が多いです。

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