吉村昭の『高熱隧道』の中で描かれる世界は「熱い」等という平易な言葉では表現できないような凄絶で凄惨な様子が描かれています。ダムの建設に伴って穴を掘り進めていくのですが、火の真っ只中で作業すると言っても過言ではありません。雪崩も発生し、自然に抗いながら、過程の中で死者を積み重ねていきます。建設会社の人間たちはとにかく穴を掘り進めていくことだけに身を捧げ、作業をこなす人夫たちも常識外の報酬を目当てに命を差し出し、国は戦争のためのエネルギー源としての早期の確立を狙い、命を下す。人一人の命の価値が小さく、現代の常識が通用しない、淡々と描かれる「狂った世界」は一読の価値があります。
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