横山秀夫の『64(ロクヨン)』のような強い力を持った、感情を揺さぶる作品にはなかなか出会えません。警察という人間の深層心理、根幹に向き合う究極の組織において描かれる群像劇はフィクションとは思えないほどの生々しさを感じさせます。組織と個人、善と悪、上司と部下、警察とマスコミ、公と私、本音と建前、誰しもが経験する葛藤、苦悩、迷い、安堵、喜び、落胆、裏切り。主人公である三上義信の視点から物語は語られますが、そこに描かれているのは等身大の人間の生き様です。それも、しっかりと一人一人の立場に置かれている人物の表情が描かれています。三上義信の心の機微を忠実に丁寧に、仕事に生きる、正しいと思うことを貫き通す、重みを背負った男の神髄を見せられた気がしました。ストーリー展開ももちろん面白く、間違いなく名作です。
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