『深夜特急〈第一便〉黄金宮殿』

『深夜特急〈第一便〉黄金宮殿』は沢木耕太郎による紀行小説、『深夜特急』シリーズの初巻、香港からシンガポールまでの道中で起こる様々な出来事が色彩豊かにつづられています。何か大きなハプニングが起きるわけでもない、歴史的な出来事に遭遇するわけでもない、異国でのありのままの日常が淡々と記されていますが、肩の力が抜けた自然な姿勢で異文化や人々に触れる様子、文字を通じて伝わるその内容が新鮮で瑞々しいです。一人旅で繰り返される思考の反芻、心の移ろいが細かく描かれていて、とても共鳴しました。「何か」を求めて旅立った、「今日一日、予定は一切なかった。せねばならぬ仕事もなければ、人に会う約束もない。すべてが自由だった。」、「決定的な局面に立たされ、選択することで、何かが固定してしまうことを恐れたのだ。」、自由で予測できない未来を想像しながら日々を生きる、刺激的で臨場感に満ちた一級のエンターテインメントです。

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