『青の炎』

貴志祐介の『青の炎』は様々な面で魅力的な作品ですが、何よりも主人公である櫛森秀一の内面を丁寧に瑞々しく描いた点がとても印象に残りました。殺人に至った時点でそこに「純粋さ」はないのかもしれませんが、曾根隆司の殺人に至った論理的で曲がった正義感、石岡拓也からの脅迫を受けて、さらなる殺人を犯し、さらに苦しみの深みにはまるその様子。数多くの数式が作中に登場するように、クールで論理的な主人公でも答えを見出せないものがもちろんあり、犯した数々のミスも、不完全な等身大の櫛森秀一という一人の人間を描いたのだと感じます。孤独を招いた早熟さ、もっと早くに福原紀子と心を通わせていればとも思いましたが、成長途上の人間の葛藤とそこから生まれる切なさという、難しい心の内を描いたという点では、著者の作品の中でも群を抜いて完成度の高い作品の一つです。

コメント