『火車』

宮部みゆきの『火車』は消費者金融に対する無知や無防備さによって引き起こされるトラブルを抜群の構成で描いています。物語は特に大きな出来事やハプニングが発生するわけではなく、非常に淡々と進みますが、その「地味さ」や「日常感」が「身近に潜む恐怖」を的確に描写していて、とても引き込まれます。どこにでもいそうな等身大の人間を描きながら、その人間が生活する社会の矛盾や理不尽さを表現している「深み」があります。本間が犯人の実像を徐々に浮かび上がらせる過程はポラロイド写真のようで、そのゆっくりで丁寧な作業は読者を魅了します。結末の「静的な劇的さ」も素晴らしいです。

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