城山三郎の『落日燃ゆ』は内閣総理大臣や外務大臣を戦前から戦中にかけて歴任した、外交官、政治家の広田弘毅の生涯を描いた作品です。あくまでも筆者から見た、数多くある視点の一つではありますが、広田弘毅の人間としての原理が丁寧に描かれていることはもちろんのこと、その原理が築かれる過程のエピソードがとても綿密で、城山三郎が広田弘毅を忠実に描写しようとする姿勢が伝わります。改めて、最終的に広田弘毅と日本を苦しめることになった統帥権の独立に端を発する軍部の暴走は苛烈なもので、その当時の空気感を感じられるほど、生々しいです。広田弘毅の戦争責任に関しては、様々な意見が存在すると思いますが、「物来順応」、「自ら計らわぬ」の生き方は美しくもあり、同時に戦争を生じさせた遠因の一つでもあり、その不条理さや自身の原理を全うしようとする姿勢にどこか儚さを感じました。
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