『ねじまき鳥クロニクル』

村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』は全体的に実態が見えない、物語の中で登場する現実さえも夢の中にいるように感じられる、幻想的な作品です。岡田亭が妻であるクミコを追い求める旅路の中で、様々な人物が登場します。その過程はとても内向的であり、それと同時に、人間の精神の奥深くに入り込み、二面性や影を表出させるような、力強さが感じられます。作品の空気感や文面はとてもクールでドライですが、生死や人間のつながり、内と外等、とてもハードで理解しようとするのに力を使う、「汚れることが必要な仕事」のような印象も受けます。主人公の叔父が、「ただね、俺は思うんだけれど、自分にとっていちばん大事なことは何かというのを、お前はもう一度よくよく考えてみた方がいいと思うよ」という言葉を残します。捉えどころない作品であり、様々な解釈が可能ですが、「いちばん大事なこと」をひたすらに追い求めるような、本質性を感じました。

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