『青が散る』

宮本輝の『青が散る』はとても「人間らしい」、等身大の人間を描いた作品だと感じました。主人公である椎名遼平を中心に、金子慎一、佐野夏子、星野祐子、安斎克己、貝谷朝海等、個性的な登場人物がそれぞれに生死や恋愛に向かい合います。それぞれに葛藤があり、結果として大半は各々が思い描いたように物事は順調に進みませんが、「生きる」ということの力強さ、純粋さ、切なさが伝わります。ペール・バスチーユの「人間は、自分の命が、いちばん大切よ」、貝谷の「人生にも引き分けというもんはないんやろなァ」、遼平の「何も喪わなかったということは、じつは数多くのかけがえのないものを喪ったのと同じではないだろうか」、辰巳圭之助が残した「潔癖」という言葉等、一つにまとめることはできそうにありませんが、「自分に正直に、悔いのないように生きること」の大切さを、内面に向き合う、ストイックなテニスというスポーツを通じて改めて、実感しました。

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