『一瞬の風になれ』

佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』に魅了されました。徐々にスプリンターとして才能を開花させていく、神谷新二の姿は題名のごとく、本当に美しく、爽快です。しかし、陸上競技というしっかりとした土台の上で、『一瞬の風になれ』は人間としての成長、背負うべき責任、挫折、怪我等を含む、スポーツの現実的で残酷な側面、人を好きになる気持ち、鍛錬等、様々な要素が濃密に描かれていて、作品に「厚み」を与えています。短距離の描写は臨場感たっぷりで、一瞬で過ぎ去ってしまうような生々しい描写は、儚ささえ感じます。一ノ瀬連が語る、「つまり、あんたは何のために、何を楽しんで生きてるの?」という言葉はとても本質的で、作品の中で描かれる、「好きなことを見つけて、没頭できることの幸せ」を表しているように思います。ただただ、「美しい」作品です。

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