太宰治の『人間失格』を読み、最初に感じたのは作品の「共感性」の強さです。主人公である大庭葉蔵は幼少期から外界や周囲の人間に感じていた違和感に対応するために道化を演じながらも、道化を演じること自体にも苦しみを感じる点は社会生活を営む上で、誰しもが経験する偽りの自分、「建前」を使うことのストレスのように思います。女性、酒、薬物に一時的な救いを求めますが、どんどんと堕落した生活の深みにはまる様子はとても生々しいです。わずかではありますが、人間不信の中で、決して「主流派」ではない、竹一や堀木正雄に心を開いた点や主人公自身が感じる父や出自とのギャップ等、「通常の世界」に対する嫌悪感が徹底的に描かれています。究極ではありますが、その赤裸々な告白に少なからず共感を覚え、大庭葉蔵のどこまでも純粋な姿勢に魅了もされます。内容の深刻さに比べ、非常に読みやすく、独特のテンポは町田康の『告白』に似ています。強烈な作品です。
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