『ダンス・ダンス・ダンス』

村上春樹の『ダンス・ダンス・ダンス』は彩りの豊かな作品です。始まりから終わりまで、全ての表現がとても丁寧で作品の世界観に引き込まれます。ゆっくりとつぶさに主人公が色々な場所に導かれながら「踊る」様を描いています。主人公が目の前で起こる様々な出来事に身を委ねながら進むストーリー展開も起伏に富んでいて、非常に魅力的です。幻想的でありながら、とても現実的に感じられ、展開に飽きることがありません。また、どの登場人物も個性豊かで作品をより表情豊かにしています。特にアメ、ユキ、ユミヨシさん等、女性の描かれ方がとても魅力的に映ります。物語の中心的なテーマは「死」ですが、ユキに向けた主人公の言葉が印象的です。「人の生命というのは君が考えているよりずっと脆いものなんだ。だから人は悔いの残らないように人と接するべきなんだ。公平に、できることなら誠実に。そういう努力をしないで、人が死んで簡単に泣いて後悔したりするような人間を僕は好まない。」