『愛と幻想のファシズム』


村上龍の『愛と幻想のファシズム』『コインロッカー・ベイビーズ』『五分後の世界』と並ぶ著者の代表作です。村上龍が提唱する普遍的なテーマである「システムへの憎悪」と「日本に対する警告」が主な内容として盛り込まれています。主人公である鈴原冬二は農耕というシステムが確立されたことにより、「本来は絶滅しているであろう人々(弱者)」が社会の中で「有利な性質を持った人々(強者)」の生活を浸食していると提言します。その考えは正にチャールズ・ダーウィンの「適者生存」であり、最終的に大衆の支持を獲得することに至ります。鈴原冬二は目標として、強者だけの理想高き社会を築くことを目標としますが、その理想を達成するための、多くの「農耕的」な行動、言い換えれば、文中で使われる「シナリオ」を必要とする現実に直面します。鈴原冬二が相田剣介(ゼロ)に対して感じる違和感や不快感は、弱者としての自分を映す鏡がゼロである事実に気付いてしまうためではないでしょうか。そして、その姿は著者自身の葛藤なのかもしれません。異なる時期に読み、読んだ後に感じる印象が微妙に違うこともまた面白く、何度でも読める素晴らしい作品です。

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